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地球人開発プロジェクト その1 ~ 鬼

『結局こうなるのか・・・』

同僚からのおみやげである”月の石”を
右手でコロコロと転がしながら、そうつぶやいた。

2016年3月。

1年前から始まったこのプロジェクトは
暗礁に乗り上げていた。

暗礁に乗り上げた象徴である儀式は
もちろん執り行われた。

プロジェクトリーダーの交代である。

たった1年でもう3回目だ。

先週、2人目のリーダーが急遽辞めることとなり
今日、新しいリーダー、つまり3人目のリーダーが来ることになっている。

『おはよう』

奈美はいつも朝一番に出社してくる。

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2年半くらい前から、早朝出社にも手当がつくようになったのだが
どうやらそれが目的ではないらしい。

その証拠にタイムカードは決まって8:50に押している。

『珍しく早いのね』

『いや、遅いんだよ・・・徹夜・・・』

時計を見ると7:30分を過ぎていた。
奈美はいつもこんなに早く出社しているのか。

『いつもこんなに早いの?』

『まぁね。早く帰りたいし。』

早く帰りたい理由はわかっていた。
飲み会に誘われるのが苦痛なのだ。

いままでのリーダー、つまり2人目のリーダーなのだが
とにかく飲み会が好きだった。

1週間に2度は、残業で残っているメンバーを引き連れて
行きつけの居酒屋に向かっていった。

メンバーはそれどころではない。上司と飲みに行きたい人間など
いるわけがない。

そんなことを感じ取れるような人なら
プロジェクトがこんな事態になるわけはないのだが・・・。

『そっちの進捗はどう?』

『この有り様だよ。』

赤いボールペンでビッシリと書き込まれたA4用紙を見せた。

これが全部で10枚』

『うゎー、いつまでに対応するの?』

『明日までだよ。いや、もう日付けが変わったから今日までか。』

『手伝おうか?』

『いや奈美も忙しいだろ。いいよ。なんとかする。』

『少し寝たら?』

『いや、もう逆に眠くないわwww』

『寝たほうがいいって。つまらなミスが増えるよ。』

『いや大丈夫だって。』

『1時間したら起こしてあげるから』

奈美がなぜそんなに寝かしたがるのか不審に思いながらも、仮眠することにした。

『そうだな。みんなが来るまで寝るか・・・』

『仮眠室の鍵はリーダーの机の後ろにかかってるよ』

『鍵かかってるのか!知らなかった。奈美がいてよかったよ。』

3階建てのこのビルは、システム開発のために最適化された近代的な施設だった。

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外観は白を貴重としており、特に天気が良い日だとその存在感は際立っている。
自動ドアは2重になっており、1つ目はセンサーで開くが2つ目は指紋認証が必要だ。

来客の入り口は別となっている。
その来客用入り口はさらに厳重となっており、事前に指紋データをメールで送り登録しておかなければならない。

コストの関係上、さすがに仮眠室までは指紋認証ではなく通常のいわゆる「鍵」を使う。

『じゃあよろしく。』

そう言い残し、第三開発室をあとにした。


新しいリーダーは全身真っ赤だった。

もちろん裸なわけはなく、スーツから露出している肌の色だけで判断したのだが、とにかく真っ赤だ。

この種族の話は噂には聞いていたが、さすがに威圧感がある。

特に頭から生えた2本の角は見るものに恐怖感を与える。
さすがにあの角で攻撃をしてくることはないだろうが
戦闘種族の名残はこの近代的なビルには不釣り合いだった。

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退屈な着任のあいさつは、寝ぼけた頭には外国語のようにしか聞こえてこなかった。

『どうして起こしてくれなかったんだよ・・・!』

『起こしたわ。でも全然起きないんだもん。』

新しいリーダーがこちらを睨む。

『私語は慎むように!』

新任のプロジェクトリーダーの着任は予定どおり11時だったのだが
目覚めた時、仮眠室の目覚まし時計は11時を少し過ぎていた。

軽い頭痛を感じながら仮眠室を出て、小走りで1階の大会議室へ向かう。

そこは300人は入るであろう、このビルでもっとも大きな部屋であるが入ったのは初めてだった。

初代、二代目のリーダーの時はそれぞれのグループにリーダー自身が足を運んで挨拶に回っていたが、今回のリーダーはそういうやり方はポリシーに反するとでも言いたげな雰囲気を漂わせていた。

そもそも戦闘種族がプロジェクトリーダーになること自体が珍しいことなのだが・・・。

『知ってのとおり地球人開発プロジェクトは暗唱に乗り上げている!』

さすがに声が通る。低くて他を威圧するような声が会場全体に響き、会場全体がビリビリと細かく揺れる。

『キックオフから1年経った。進捗状況はどうですか?』

傍らで小さくなっているサブリーダーを睨んだ。

新任のリーダーが進捗を知らないわけがない。ただの演出なのだろう。

サブリーダーは手に持っていた大きな模造紙をホワイトボードに貼った。
そして折れ線グラフが書かれたそれにカメラのレンズをあてる。
プロジェクタによって300人全員が見えるサイズで投影された。

『このようにおおよそ2ヶ月遅れている!』

隣の奈美がつぶやいた。

『あれ?3ヶ月の遅れじゃなかったっけ?』

その通りだ。サブリーダーか前任のリーダーが少ない数字で報告しているらしい。

『この遅れを20日以内に取り戻す。いいな!』

20日・・・

会場がざわめく。

そりゃあそうだろう。
2ヶ月、いや実際には3ヶ月の遅れを20日で取り返すことなど無理な話だ。

『そのためには今後は私が毎日、進捗を確認することとする。
各グループは毎日私に報告書を提出するように。メールではなく印刷して持参すること。』

鎮まりかけていた会場が、またざわめきだす。
300人弱のこのプロジェクトのグループは15あった。

15のグループの進捗を毎日確認するだけならまだしも、印刷して持参しろということはすなわち毎日進捗会議があるということだ。

不安がよぎる。

グループ長である奈美を横目で見る。
無表情に見えたが、内心は同じく不安でいっぱいなのだろう。

地球に生命を誕生させる一大プロジェクトの完了目標まであと2年・・・。

(続く・・・)

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